雪は空中にあります

あなたが目を覚ますたびに、すべての夢と一緒にいることへの長い愛をあなたに送ります
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料理なんか作って

2015年07月23日

料理なんか作って
 でもつわりが治まると現金なもんで、無性に銀ちゃんに会いたくなった。寝てもさめても銀ちゃんのことばかり考えていた。こらえきれず、あたしは、銀ちゃんとよくコーヒーを飲みに行ったカフェテラスで一日中ボーッと坐っていたり、思いきって、白川のマンションの前まで行って、向かいの駐車場の陰から五階の銀ちゃんの部屋を見上げたりしていた でもそんな日は、ヤスにうしろめたくて、料理なんか作って待っててやったりしたよ。ヤスは、ほんとに嬉しそうで、残らずたいらげてくれ、次の日には、きれい外藉家庭傭工なフライパンやなべを買って帰ってくる。きっと、またあたしが何か作って待ってることを期待してるのよね。そういうふうに期待されてることが興ざめで、またそれで気が重くなってね、喧嘩《けんか》になって……それの繰り返しよ ある日決心して、返しそびれてた鍵を使って銀ちゃんの部屋に入った。夜になっても電気もつけないで、一日中ずっと一人で坐り込んでた 相変わらず即席焼ソバが好きなのね。袋が流しいっぱいに散らかってるんだ。

ソファの上に齧《かじ》りかけの大きいハムが転がってるかと思うと、ステレオの上にはナポレオンの蓋《ふた》があいたままで、飲み残しのブランデーグラスが埃《ほこり》を被ってる。なにも変わっていないんで、あたしなんだかホッとした。掃除ひとつした様子のないとこ見ると、あれからひと月以上たつのに、まだめぐみを連れ込んでないようだ。きっと銀ちゃんのことだから手も握れずにいるんだろう。でも、それだけ今度は本気なのかもしれないって、思わず悲しくなっちゃってね 楽そうな男を選んじゃ、すったもんだ、くっついたり離れたりしてきたあたしだったから、銀ちゃんだってつきあいやすかったのね。考えてみれば、映画の役どころだって、このごろはあたしの地でいける情婦や二号の役しかこなくなったし、今さら銀ちゃんにお嫁さんにしてくれっ印傭公司て言えるような柄じゃないのよね。銀ちゃんだってあれだけ野心のある人だから、パーティなんかで、うしろ指さされてあれこれ言われる女よりも、なんの過去もない、無邪気なかわいい女の人をそばに置いときたいだろうしね。でも、やっぱりあたしじゃだめなんだなって思うと、口惜しいやら情けないやらでね あたしはベッドにもぐり込み、シーツに残った銀ちゃんの匂いを嗅ぎながらひとしきり泣いて、ベッドサイドのテーブルの上に、そっと鍵を置いて部屋を出た それから、二、三日して、「今夜九時半~三十五分の間、銀ちゃんが電話するそうです」ってヤスのメモがあった 電話のベルと同時に受話器をひったくるようにしてあたしが出ると「あれ、ヤスいないの? 小夏に電話するからいろって言っといたんだけどなあ。まいったなあ、俺、こういうの嫌いよ。亭主のいない留守に電話するなんて、間男してるみたいで寝醒めが悪いよ。不正がないようにドアでも開けとけよ。俺とおまえは、もうまるっきり関係がないんだから「かまわないわよ、そんなこと。

で、どうしたのよ「めぐみのことなんだよ、おまえに相談しようと思ってな「やっぱりめぐみだったじゃないの「そのめぐみんちの段取りが大変でなあ。結納《ゆいのう》だの、仲人《なこうど》に挨拶だの、家系だのって。俺、親はいないし、妹は大井競馬場の馬券売場に勤めてるだろ。だから強気で押せなくてなあ「そんなこと関係ないんじゃないの「おまえとは女の格が違うんだよ「あたしんちだって水戸に帰れば長者番付にのってんのよ「ばか、めぐみんちは格式が違うんだ。結納だっていろいろ面倒くさいんだぞ「連れて逃げれば「俺の場合は、逃げても純愛にならず、スキャンダルになるんだよ 相当落ち込んじゃってるみたいで、悲痛な声なの それからは堰《せき》を切ったように、確実に朝晩、二回は電話をかけてくる。早朝だろうが真夜中であろうがおかまいなしに、哀れっぽい声で一時間以上相手をさせて、それでとうとうあたしがめぐみに会ってやること鑽石能量水になった 河原町の、三方ガラス張りのクレープ屋さんでめぐみって娘《こ》を見て、あたしは唖然とした。二十歳と聞いてたけど、ちょっと見には中学生くらいにしか見えず、こんな小娘に振り回されていたのかと思ったら、情けなくて口も利けなかった。銀ちゃんがしつこく、自分のことを喋ってくれというし、めぐみもお願いしますっていうものだから、思いつくまま、銀ちゃんは寝起きが悪いから早朝ロケの時はたっぷり一時間半位みて起こしてあげた方がいいとか、料理は、味はともかく素早く品数をたくさん作ってあげると機嫌がいいとか、他愛もないことを喋ってやると最初は警戒していためぐみも、



Posted by にテニスエ at 13:08│Comments(0)
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